日本の時計メーカーはスマートウォッチの台頭にどう立ち向かっているのか?

アップルウォッチの出荷台数がスイスの時計を抜いたことが話題になっています。アップルウォッチとスイスの高級時計はターゲットが異なるとも言われていますが、影響は少なくないはずです。では、日本の時計メーカーはスマートウォッチの波に対してどのような対応をしているのでしょうか。今回はシチズン、カシオ、セイコーの対応をそれぞれ分析していきます。

スマートウォッチの歴史

最初にスマートウォッチの歴史を簡単に振り返ります。スマートウォッチの意味を「多機能な腕時計」と解釈すると、その歴史は意外と古いです。1980年代には電卓や電話帳機能が付いた時計が各メーカーから売り出され始めました。やがてPCと通信するスマートウォッチの原型が出始め、主にマニア向けのニッチな市場が出来上がりました。そのあたりはウィキペディアになかなか詳しく載っています。

スマートウォッチ - Wikipedia

当時は日本の三大時計メーカーも積極的に取り組んでいたようです。

スマートウォッチが一気に一般層に浸透し始めたのは2010年代の半ばです。2014年、グーグルがスマートウォッチ専用のOS「Android Wear」を発表(現在は Wear OS by Googleに改称)。スマートウォッチが脚光を浴びるようになりました。そんな中2015年に「アップルウォッチ」が登場。洗練されたデザインと完成度の高い機能により、スマートウォッチは売れ始めました。最初はスマートウォッチの必要性を疑っていた人も、機能の増加や価格の下落などに伴い買うようになり、現在は腕時計と肩を並べる巨大な市場にまで成長しました。

セイコー

まずは国内3番手のセイコーの戦略を見ていきます。高級時計のブランド「グランドセイコー」が有名です。

セイコーのスマートウォッチ

セイコーがスマートフォンと連携するスマートウォッチを作ったのは2016年です。登山者をターゲットにしたスマートウォッチ「プロスペックス アルピニスト」を発売しました。2017年には機能をアウトドアに広げたモデル「プロスペックス ランドトレーサー」も発売。

出典:SEIKO

しかし、それ以降セイコーはスマートウォッチを売り出していません。

(※ソニーの wena wrist とコラボしたモデルは発売しています。)

セイコーの戦略

セイコーはここ数年「高級路線」に力を入れています。2017年には「グランドセイコー」ブランドをセイコー下から独立させ、国内外にグランドセイコーのショップを開設。その甲斐もありグランドセイコーの知名度は上がり、売り上げも順調に増えています。

出典:Grand Seiko

では、なぜスマートウォッチを発売せずに高級化を目指しているのでしょうか。その理由の一つは、「高級時計とアップルウォッチは購買層が異なる」点にあります。アップルウォッチを買う多くの人は、ガジェットとしての機能や洗練されたデザインに魅力を感じて買っています。一方で高級時計を買う人は、機能というよりも時計としてのデザインやステータスに価値を感じている人が多いです。そのため、セイコーは高級路線に力を入れスマートウォッチとの対決を避けることで生き残ろうとしていると言えます。

シチズン

次に国内2番手のシチズンです。シチズンは「市民に愛され市民に貢献する」を理念としているため、セイコーのような高級路線とは方針が違いそうです。

シチズンのスマートウォッチ

シチズンは普通のスマートウォッチを発売していない一方で、ハイブリッドスマートウォッチに力を入れています。2016年、スマートフォンと通信する時計「Eco-Drive Bluetooth」が発売されました。

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Eco-Drive Bluetooth は電池交換がいらない点は画期的でしたが、他ハイブリッドスマートウォッチと比べると機能が少ないため、市場の中で存在感を出すことに苦戦していました。

そこでシチズンが2019年に新たに開発したのが、「Eco-Drive Riiiver」です。

シチズンの「Eco-Drive Riiiver」を使ってみた率直な感想は「アプリに課題あり」
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Eco-Drive Riiiver はIoTプラットフォーム Riiiver と連携することにより、スマート家電やSNSへの送信機能を好きに作れる新しい野心に溢れたハイブリッドスマートウォッチでした。しかし、評判は微妙。時計としての完成度は高いのですが、アプリ側の完成度の低さや通信の不安定さが課題として残っており、アプリストアの評価は★1.6が付いてしまっています(2020/03/20現在)。

このように、シチズンはハイブリッドスマートウォッチに力を入れていますが、なかなか皆が満足する製品を作れていないのが現状です。

シチズンの子会社のスマートウォッチ

実はシチズンだけでなく、子会社でもハイブリッドスマートウォッチを売り出しています。それが、スイスの時計ブランド「フレデリック・コンスタント」と「アルピナ」です。二社は「MMT」という企業の技術を用い「オロロジカル」というハイブリッドスマートウォッチを2015年に発売しました。

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MMT は現在も開発を続けており、2020年1月には光発電を用いた試作品を公開しました。今後も新製品が期待できそうです。

シチズンの戦略

シチズンの戦略は、「ハイブリッドスマートウォッチ」に力を入れることです。ハイブリッドスマートウォッチは市場では独自の存在感を出しており、時計として使いたいけど多機能も欲しいという層を惹きつけています。アップルウォッチとも住みわけができています。

現状は思惑通りにハイブリッドスマートウォッチが開発できていない現状がありますが、現在ハイブリッド関連の技術で他社と連携を取れているため、今後良い製品が出る可能性は高いと考えられます。例えば、子会社であるフレデリック・コンスタントと連携している MMT の技術を使うことができれば、スタンダードなハイブリッドスマートウォッチを作り出すことができます。また、2018年にはフォッシルグループと技術連携契約を結んでいます。フォッシルも興味深い製品を発売しているので、シナジー効果で面白いものができるかもしれません。

ただし、シチズンは「今後成長が見込まれるスマートウォッチや機械式、高級品を中長期的に育成し製品領域の拡大を行ってまいります」とも明言しているため(有価証券報告書より)、ハイブリッドスマートウォッチに一本化しようとしているわけでないことにはご注意ください。

カシオ

最後に一番手のカシオです。セイコーとシチズンは時計事業から始まった企業ですが、カシオは計算機がルーツにあります。そのため時計事業に参入した最初の製品もデジタルの腕時計でした。看板商品は頑丈さを極めた「G-SHOCK」で、世界的に独自の地位を確立しています。

カシオのスマートウォッチ

ルーツがデジタル技術にあるだけに、カシオは他企業と比べスマートウォッチ技術をいち早く取り入れています。2012年、スマートフォンとつながるG-SHOCKモデルが発売されました(GB-6900)。アップルウォッチ発売よりもさらに2年前になります。

その後も様々なスマートウォッチが発売され続けています。G-SHOCK はもちろんのこと、カシオの時計のブランド(EDIFICE, SHEEN など)からもハイブリッドスマートウォッチが発売されています。その結果カシオのスマートウォッチは約100種類を超えるまでになりました。

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一方で、アウドドアに特化したスマートウォッチも発売しています。2016年、カラーとモノクロ液晶両方を使い分けることで利便性と電池持ちを実現させた「Smart OutDoor Watch」を発売しました(WSD-F10)。現在も定期的に新モデルが発売されており、「PRO TREK Smart」という名に代わりながらも開発が続けられています。

出典:CASIO

カシオの戦略

カシオの戦略は、「独自ブランド」と「特化型スマートウォッチの販売」です。

G-SHOCKブランドは世界的な人気があり、最近は中国市場でも浸透し始めています。カシオはそのブランドを元に、いち早くスマートフォンリンクのG-SHOCKを発売しました。G-SHOCK は一目でわかるような独自のデザインを確立しています。そのため、スマートウォッチ界隈でも独自の地位を築けていると言えそうです。

カシオの各製品で興味深いのが、各モデルごとに異なるターゲットが設定されていることです。例えば、「GRAVITYMASTER」はパイロット、「G’MIX」は音楽好きをターゲットに発売しています。

 

また、先ほど紹介した「PRO TREK Smart」では、オフラインの地図やアクティビティの記録など、サイクリングからフィッシングまで多様なアウトドアに特化した製品を売り出しています。特化した製品を発売することで、一般的なスマートウォッチを使っている人とは別の層にアピールすることができるということでしょう。

うまく対応できているように見えるカシオですが、現在スマートウォッチ市場全体での存在感は今一つで、ヒット商品までには辿り着けていないのが現状です。原因としては、多くのカシオのスマートウォッチは機能が少ない点が挙げられます。そこで、今後は多機能化を進めていくことが期待されます。2020年4月には、G-SHOCK 初となる心拍機能付きのモデルを発売する予定です(GBD-H1000)。

出典:CASIO

まとめ

セイコーは高級時計に、シチズンはハイブリッドスマートウォッチに、カシオはコンセプト特化型のスマートウォッチと、各メーカーはそれぞれ別の戦略で生き残ろうとしています。どれが正しいのかはまだ誰にもわかりません。今後各メーカーがどのような製品を売り出していくのか楽しみです。
 

参考資料

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